──「Darker than BLACK -黒の契約者-」の音楽制作は、どのように始まっていったのでしょうか?
菅野 まずボンズさんから声をかけていただいて、岡村監督とお会いしました。
そして、監督のお話を聞きながら、私がこの作品に関わるとしたら、
いったい何が出来るんだろうって1ヶ月くらい考えた後に、お引き受けしようと思いました。
──岡村監督とは、当初、どのような話をされたのですか?
菅野 その頃は、物語の詳しい内容はまだ決まってなかったので、
主にどんな作品にしたいかというイメージですね。監督は、1970年代から80年代の、
今よりもちょっと貧乏だった日本のような場所で繰り広げられる刑事モノだとおっしゃっていました。
──その言葉は、最終的に出来上がった世界観とは、かなり違うような気がするんですが(笑)。
菅野 たしかに私も、後になってシナリオが上がってきた時は、
「どこが80年代の刑事モノなんだ?」と思いました(笑)。
でも、岡村監督はSFだったりサスペンスだったりする硬質な世界観の中で、
逆に人間味のある泥くさいドラマを
見せようとしているのかなと。そのギャップに、この作品の魅力を感じました。
──楽曲制作を始めた頃は、シナリオも設定画もない段階だったということですよね?
菅野 そうですね。だからこそ、監督との最初の打ち合わせは大事でした。
監督の言葉のどこに、私が直感的にひっかかるかというのが、音楽にすごく影響してくるんです。
──引っかかった言葉が、先ほど出た「1980年代」と「刑事」?
菅野 そう。あとは「街を流れている、どんよりとした川」とか「男臭さ」とか。
それから、最初にお会いした時、監督はハンチング帽を被っていて、なんだか刑事みたいな雰囲気だったんです。 もしくはフランスの芸術家みたいな……、
よく言えばですけど(笑)。そういう監督の外見も、実は音楽に影響してくるんです。
──岡村監督がハンチング帽を被って打ち合わせに来たことで、音楽の方向性が決まっていった?
菅野 おかしな話に聞こえるかもしれないけど、そういう一面は確かにあるんです(笑)。
──トラックダウンが終わった数曲を聴かせていただきましたが、SFで刑事モノということでは共通点の多い「攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX」のサウンドとは違って、なんだか柔らかな印象を受けました。
菅野 最初に作った数曲は、そういう感じかもしれないですね。現在、制作中のものは、もうちょっとハードな楽曲が多いですけど。 常に考えていたのは、色気が欲しいということです。
肉付きのいいグラマラスな曲にしたいと思っていました。
──それはなぜですか?
菅野 理屈ではなく、監督とお話ししてる時、漠然とイメージしたんです。
昔のフランス映画のような感じにしようかなと。男性は男の色気たっぷりで、女性はグラマーでマニキュア塗ってボディコンシャスな服着てて、恋愛のシーンとかにまったりとした音楽が付くような感じで。
「Darker Than BLACK」の世界とはまるで逆ですけど(笑)。
──「Darker Than BLACK」の登場人物たちは、精神的にも肉体的にも無機質で、色気というものからは無縁に見えます。
主人公のヘイを始めとして、グラマラスという言葉の対極にいるような人ばかりですよね。
菅野 そうですね。でも、彼らは人間としてのある部分を切り捨てて、今のような姿になっているんですよね。
そして音楽では、その部分こそ表現したいと思いました。彼らが失ってしまった感情とか人間くさい部分、
絵には描かれない失ってしまった内面を音にしたら、映像がさらに印象的になるような気がしたんです。
──人間味というキャラクターの“肉”が削がれているのに対して、
音楽は肉感的な方向に向かっていっている
ということですか?
菅野 そうですね。そして、ドライではなく、ウェットな方向に向かっています。
──たとえば、数曲に感じられたラテン・ミュージックの要素などは、
肉感的でウェットなサウンドの一例と考えていいのでしょうか?
菅野 はい。たしかに今回、ラテンが入ってますね。
感情のない人たちが自分の内部から切り捨てたものというのは、暑苦しさとかセクシーさ、
そして生き物としての匂いだと思うんですが、
それを音楽で表そうとすると、私の場合、
ラテンになってしまうんですね。
──そして、まったりとしたムーディな曲もあり、温かさや切なさを感じさせる曲もあり。
とにかく感情豊かで、かつオシャレな曲がいくつも並んでいました。
菅野 音響監督の若林(和弘)さんが書いてくれたメニューを見ても、
「感情がなくて冷たい」とか
「冷静」とかいう言葉が並んでいるんですよ。でも、出来上がる曲は逆(笑)。
なんで、こんなあまのじゃくなことをしたがるのか、自分でも分からないんですけど。
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